#0-01 樹の基礎知識/キノキソチシキ ~木とは何か~


1.木とは?
2.針葉樹・広葉樹とは?
3.木材としてのかたち

森林が成立するほどの湿潤な条件を持つところは、地球陸地のわずが三分の一にすぎない」樹の辞典/文:只木良也/朝日新聞社 ◍ 写真:山形県宝珠山立石寺(山寺)◍


1.木とはなにか。

いきなりですが皆さん、木とは何でしょう?

木についての書き物ならば、これは避けて通れない話なのでは?

そう思って気楽に書き始めたのですよ。

が、まさか初太刀で躓くとは思いませんでした。


結論から申し上げますと「特に木というものの定義はない」。

な、なんですって!!

生物界に於いて植物界という生物界のカテゴリはあるものの、木も草も同じカテゴリの種名を名乗っているのです。

つまり「木と草には明確な区分はない」のです。

「そんなバカな!」と思った方のために、様々な文献の定義をまとめてみました。

◍ 「木とは何か」参考資料と定義の一覧 ◍


こう見てみると、文献ごとに言っていることはバラバラ。

(とは言っても「木とは」と定義している文献はあまりないのですが。)

でも「二次肥大成長する」「木は生物である」はともかく「概念である」っていうのは哲学的ですね。


ただ、確かに種ごとの個体差は大きく、銘木であるブビンガは直径3mにもなる非常に綺麗な赤色の木目が特徴の木ですが、実はマメ科です。(ローズウッドの代替品として好まれています)

また生命の木としても有名なリグナムバイタですが、科はハマビシ。


同じ科なのに木であるものと、草であるものと。

明確には分ける事が出来ないのですね。

◍ 同じ科に属する植物たち(草と木) ◍


「木とは何か?木は木だろ。」

しかしながら自分で問題提起しているのにも関わらず「木ってなあに?」が分からず、あたふたと悩みまくってかなりの年月が経過しました。ブログ公開に時間がかかって申し訳ない。


でもですね、私素人ですし、結局のところあまり難しいことは分からないのですよ。

それに、せっかく「ゆるい役に立たない」ブログを目指しているのに、あまりガチガチなアカデミックな内容になっても面白くない。というか、そういうのは無理です。


そんな訳で、メンドクサイ命題問題なんぞはサムエル御大の言葉で締めくくって、さっさと終わらせてしまう事にしました。

…そういう事だそうです。

この道60年以上の玄人の発言は、含蓄があるのか、ないのか。

「わが国は国土が狭いわりには植物の種類が豊富である。(中略)樹木の種類は一〇〇〇種をはるかに超える。」日本有用樹木誌/伊東隆夫ほか著/海青社


2.針葉樹と広葉樹とは何か?

いきなりですが皆さん、針葉樹と広葉樹とは何でしょう?

気を取り直して、今度は頑張ってまいりましょう!

皆さんは子供のころに「葉が広いので広葉樹」「葉が細いので針葉樹」と習った方が大半かと思います。今は違うのかな。

そう、その通りです。ちっとも間違ってない。

ですが何事にも例外があるように、木にもあります。


生きた化石の木。

それは銀杏(いちょう)。

銀杏は実は広葉樹ではなく、針葉樹でもないのです。


どういうことなの?

その答えは、植物が進化してきた系図にあるのです。って書くと、ドキュメンタリーみたいですね。

「広葉樹は針葉樹の登場から約1万4000年遅れて登場した」世界木材図鑑/Aidan Walkerほか著/産調出版(文は引用、図は著書内のものを参考に作成)


裸子植物であるイチョウ科は、中生代から新生代にかけて世界中に様々な種が繁栄していたのですが、氷期にほぼ絶滅しています。現存するのは中国産である「銀杏」のみ。

その唯一残った「銀杏」の正式科目は「裸子植物門イチョウ綱イチョウ目イチョウ科イチョウ属」という一種のみのカテゴリで、針葉樹の近種ということになります。

なんと「生きている化石」という事で、IUCNのレッドリスト「絶滅危惧IB類」に登録されているのですよ。絶滅危惧とな!結構すごい木なのです。


ただし(ここまで持ち上げといてなんですが)、日本での主な用途はまな板なんですけれども。


銀杏は針葉樹!(ここでは一応ね)

でもなぜ、いきなり銀杏の話を真剣にしてるの?と思った方は多いと思います。

これは単純に「木材だから」。

いざ木材の話をしようとする時に、「広葉樹」「広葉樹」に分けるぞ~はて銀杏はいったいどこに?

その段階で物知りな方に「違うぞ!」といわれても困るので、一応事前に説明させていただいておいて、その前提で話を進めたいと。

あと、裸子植物とか、被子植物とか、あまり難しい名前でカテゴリを作ってしまうと、読むほうもメンドクサイのではないかと思いまして。という一応言い訳をさせていただきます。

「樹木は、それが可能な条件下では、ほとんどの陸上環境において、その地で最も大きくなる植物である。」wikipedia/木


3.木材としてのかたち

「それって学術的に云々っていう話だろ?そんなこと考えて仕事しないもん。」

オチを最初に書いてしまいましたが、木の無駄知識を付けたい方はぜひ続きをどうぞ。


実はですね、木材界では「針葉樹」「広葉樹」は、あまり使われないカテゴリなのです。

「今までの話関係ないじゃん?」と思われる方。まあまあ、基礎知識ですから。

「じゃあ、どうやってカテゴライズしてるの?」と思われた心の広きお方、続きをどうぞ。


木材を学術的に分けると、大体以下の4種類に分けられるようです。

(最近では中学校の理科の教科書にも載っているようで、びっくり!)


▮「針葉樹材(しんようじゅざい)」

「それ針葉樹じゃないの?」私もそう思いますが、まあまあ。

これは針葉樹全体を指しており、「細胞の種類が少ないため単純な木目」「年輪の明らかな樹木が多い」などの特徴があります。

針葉樹材は単純な構造ゆえに広葉樹材と違って植林しやすく、育てやすいという良さがあります。現代では悪の根源のように言われる杉ですが、実は縁の下の力持ちとして皆さんの身近なところでたくさん使われているのです。

ただ銀杏は別で、どちらかというと後述する散孔材に近いような。


ひとつめは台湾檜。

ふたつめはチリ杉。

どちらも天然木(植林していないもの)なので、木目が鮮やかでエネルギッシュです。

一方、杉は植林材ですので、木目は単純です。

「広葉樹材と比較して、構成細胞の種類が少なく、単純で整然とした構造をしている。このことが割裂加工や鋸断加工を容易にしていると考えられている。」針葉樹材/Wikipedia ◍ 写真:赤松/戸棚 ◍


▮「環孔材(かんこうざい)」

こちらの代表的な木は「梻(たも)」「欅(けやき)」「栗(くり)」などで、大きな導管が年輪に沿って並ぶため「木目がはっきりする」のが特徴です。


まずはRed Oak(レッドオーク)。

続いて欅(けやき)。

木目の線が非常に濃く、はっきりとしているのが分かります。

「径が大きめの道管が、年輪界(年輪の境界線)に沿って並んでいる材。年輪がはっきり見える。」樹木と木材の図鑑/西川栄明/創元社 ◍ 写真:Silky Oak/小箱 ◍


▮「散孔材(さんこうざい)」

代表的な木は「桜(さくら)」「栃(とちのき)」「椈(ぶな)」などで、緻密な木目と柔らかな印象を持つ種です。木目ははっきりしておらず、年輪もわかりにくいのが特徴。


まずは桜(山桜)です。

山桜はもっと薄い赤色ですが、うちにあるものは何十年も寝かせたものなので赤味が強く出ていて非常に美しいです。

そして栃。

こちらも非常に上品で女性らしい細やかな印象の木です。

「道管が木口全体に散らばっている材。(中略)南方系の外材のほとんどが散孔材。」樹木と木材の図鑑/西川栄明/創元社 ◍ 写真:栃/丸テーブル ◍


▮「放射孔材(ほうしゃこうざい)」

「樫類」や「椎類」がこれに当たるそう。

樫と言えば非常に硬いため、職人の使う「のみの柄」に使われるとか。なので職人の家には在庫はあるものなのですが、そんな滅多に壊れないものなので出てこない。(つまりそれくらい硬い)

普段全く使用されない種のため、こちらは写真もないのです。ごめんなさい。

「道管が樹心を中心にして放射状に並ぶ材」樹木と木材の図鑑/西川栄明/創元社



ちなみにですが、サムエル御大に「木材ってどう分けとるん?」聞いたところ、タイトルのような返答が返ってきました。確かに色々な木材の文献はあるものの、学術関係の方が書かれたものがほとんどです。


実際に指物大工職人のベテランさんが書くとどうなるんだろう。というのがこのブログの趣旨なのですが、逆に「職人さんや材木商さんの考える木ってもっと頑固で難しいんじゃないの?」と思われるかもしれません。

が、意外と適当です。本当です!!

あと、適当すぎて学術関係の方の方が見たら怒るかもしれません。本当です!!


次回は、そんな適当な世界についても基礎知識を披露できればなあと思っています。


最後に。

最後までお付き合い頂いて、どうもありがとうございました。

とりあえず、第一回目はこれくらいで良いかな~と思っております。


よろしければ、またお会いしましょう! 


◍ 参考にしました文献は以下の通りです。ありがとうございました。◍

(ただのリンクですので、収益化などはしておりません。お気軽にどうぞ!)

有限会社 サムエル

岡山の西大寺にて1979年に創業して以来、指物大工として木と関わってきました。 木に関することでしたら、何でもご相談ください。